ユカギール
ユカギールは、チュクチ半島のつけ根あたりを流れる大河、コリマ川上流域の
タイガ地帯と、コリマ川下流域からアラゼヤ川流域にかけたツンドラ地帯とい
う、地理的に離れた二つの地域に住む民族である。人口は約1100人。かつ
ては北東シベリアの広い地域に住んでいたが、ヤクート人やエウェン人、チュ
クチ人、ロシア人といった近隣の民族に押されて、その居住範囲は次第に狭ま
り、現在のような状態になったと見られる。
一般に、タイガ地帯のユカギールはコリマ・ユカギール、ツンドラ地帯のユカ
ギールはツンドラ・ユカギールと呼ばれるが、ユカギールという民族名は自称
ではなく、コリマ・ユカギールはオドゥル(odul)、ツンドラ・ユカギールは
ワドゥル(wadul)と自らを呼んでいる。自称はいずれも「強者」を意味する
という。これら二つのグループは、伝統的な生業という点においても違いがあ
り、コリマ・ユカギールは狩猟と漁労によって生活を支えてきたのに対し、ツ
ンドラ・ユカギールは狩猟・漁労に加えて、トナカイ飼育もおこなう。
現在、ユカギール語は、二つのグループに対応して、コリマ・ユカギール語と
ツンドラ・ユカギール語に分かれる(あるいはユカギール語コリマ方言、ユカ
ギール語ツンドラ方言として言及されることもある)。正確な話者数を把握す
ることはむずかしいが、コリマ・ユカギール語で50人、ツンドラ・ユカギー
ル語で200人ほど、それも60歳代以上の高齢者を中心とすると見られ、言
語の保持という点からは、他の北方先住民族と同じく、いや、その中でも特に
危機的な状況におかれていると言わざるを得ない。
ユカギール人やユカギール語に関して、また、ユカギール語の研究状況に関し
ては、以下のページからも有益な情報を得ることができる。
(長崎 郁)