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チュクチ

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チュクチはアジア大陸北東端(ロシア領)、チュクチ半島およびその周辺地域に住む総人口約1万5千人の民族である。その大部分は、チュクチ自治管区の8つの地区に広く分散しており、残りのごく一部が隣接するコリャーク自治管区のアリュートル地区およびサハ共和国などに居住している。自治管区は73万平方キロメートルあまりの面積を持ち、これは日本の国土のほぼ2倍である。そこにはチュクチ人以外に、ごく少数のアジア・エスキモーが東の海岸地帯に、また内陸部にはツングス系のエヴェン人(ラムート人)がごく少数住んでいる。さらにロシア人、ウクライナ人など白色人種も6万人いると見られ、彼らは主に村や町に集中している。従って、自治管区といっても、ロシア人などの白人が多数を占め、チュクチ人はやはり少数派である。
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チュクチ人は伝統的には、その居住環境と生業により大きく2つのグループに分かれる。一方は、広大なツンドラ地帯でトナカイを追って遊牧生活を営む「トナカイ遊牧民」であり、もう一方は東のチュクチ海、ベーリング海などの海岸地帯に住み、セイウチ、アザラシ、クジラなどの海獣狩りや漁労活動を営む「海岸チュクチ」である。「チュクチ」という民族の名称は、前者の自称である「トナカイを多く持つ人」を意味する「チャウチウ」に由来するものであり、後者の「海岸チュクチ」は、その居住する地域と生活の環境を反映した、別の自称「アンカルエン」(海の人)をもっている。しかし、近年になって「海岸チュクチ」が住む海岸地域には、本来の「トナカイ遊牧民」も混じって住むようになっている。
チュクチはかつて、コリャーク、ユカギール、シベリア・エスキモー、アリュートなど近隣の諸民族の中で最大の数を誇り、チュクチ語はシベリア北東地域において最も影響力のある言語であった。ロシア帝政時代、ロシア人がこの地域に進出してくる以前には、シベリア・エスキモー、ユカギール、エヴェンなどの周辺民族とチュクチ人の間で、チュクチ語が媒介言語として用いられるほどであった。ソ連政権の誕生に伴い、とりわけ1950年代から大量のロシア人が出稼ぎのためにこの地域に押し寄せたことによって、チュクチの状況は一変した。今、20歳以下の若年層の中で、チュクチ語を流暢に話せる人は少なく、ロシア語が母語化する傾向はますます強くなっている。チュクチ語の置かれている状況は、たとえ近隣の諸言語に比べると比較的よいとはいえ、この地域での有力な言語から弱小の言語へと変わりつつある。
(呉人 徳司)